長崎から始まった環状線に沿って行っていた武術留学の旅も折り返し地点。
 環状線の始点、満天星(ドウダン)国。その名は満天星(ドウダンツツジ)より取られているのだろう。
 かつてウォードレスで名を馳せ、帝國の歩兵事情を向上させた都築藩国と画期的な騎乗兵器となるエアバイク、ピケを開発したビギナーズ王国が合併してできた新しい国である。
 ここにも青年は来ていた。

「うんうん、話は聞いてるよ。じゃあ、まずは訓練に参加してみようか」

「は? えーと。」

 さも当然そうにニコニコと語るウォードレス部隊の隊長は語る。そういってつれてこられたのは旧都築藩国演習場。鬱蒼と茂った密林がそこには広がっていた。
 ただ銃が使えるわけでもなく、歩兵でもない青年には着てもただの気密性の高いスーツに過ぎない。ぴったりしている分動きにくいともいえるだろう。
 だが、一緒に行動してみてその的確さに舌をも巻くことしきりであった。

 そこに見え隠れするのは経験の重要性。

 青年は思わず唇をぎゅっとかみ締める。暁の円卓には経験の蓄積を可能とする期間は非常に少ない。なぜならば、今の過酷な環境においては、生き残ることすら一部にしかできないからだ。
 これも伸び白を得るための一つの答えなのではないのだろうか。

 その後実際の白兵での訓練も行った。
 確かに直接の戦いにおいては暁の白兵能力の強さは強力なものであるところを見せることはできたものの、その差を埋めるようなベテラン兵の戦法は何度も危うい状況に追い込まれていた。もしこれが戦場であれば、攻撃機会の関係で負けていたかもしれないとも思う。

 少しの敗北感と多大なる教訓を胸に青年はこの満天星国という国での訓練を終える。
 もしかしたら、見直すべき場所はたくさんあるのではないのだろうか。





 ウォードレスダンサーという機械化歩兵がいる。これはパワードスーツタイプの外骨格型のものではなく、人工筋肉を直接着込みその制御を人が行うというものである。元来はウォードレスコネクタにより本当に人に接続して制御を行うものであったが、旧都築藩国の技術により、バイザーへの情報システム連携を軸として、コネクタ未保有者にも着れるように改良してあるものが帝國においては主流となっていた。

 天陽へ至る陽光シリーズ。

 これはスペックや稼動範囲こそ共和国の煌月に劣るもののその着用範囲の広さとピケシリーズとの併用で驚異的な性能をたたき出すことができるという帝國の誇るウォードレス歩兵の基本であったのである。

 先に述べた用に着込むタイプのウォードレスがある一方で、いわゆるパワードスーツタイプ、つまり外骨格型のウォードレスも存在する。それが甲殻型ウォードレスである。これを着込むものを甲殻型ウォードレスダンサーと呼ぶ。
 特に重ウォードレスとして開発されたドンファンは歩兵支援用機動兵器としてデザインされていた。

 これらウォードレスと甲殻型ウォードレス、二つのウォードレス兵はこれまでに様々な戦場にて経験を重ねてきた。となれば当然ながらベテランと呼ばれる者達が存在する。

 前振りが長くなったが、青年はそんな彼らに話を聞くために来ている。ウォードレス兵は共に肩を並べることもあれば、ともすれば敵にも同じようにウォードレス兵が出てきてもおかしくないからだ。
 だとすれば、ベテランの技を見せてもらうことは大きな意味があるだろう。