藩政区に乗り入れる環状線から降り立つとGNRの路線にて砂漠を渡ることになる。この国は暑さと寒さが同居する稀有な国、涼州藩国。
 この国、暁の円卓藩王にとっては帝國軍における上司である悪童屋元帥の治める国であり、暁の円卓藩国としても汗血馬を譲り受けたり人員を派遣してもらったりするなど、とても関係の深い国である。

 ここにも青年は訪れていた。

「話には聞いてたけど、本当に猫がいるんだなぁ。」
 周りを一望し、そう呟いた。
「まあ、元は共和国から来たからな。」
 前に座った猫が銜え煙草を揺らしてそう応え、青年に笑いかける。
 はっと視線を猫に移す。
「そんなに珍しいかね? 暁の円卓の人間よ。」
 さっきまで完全に気配が消えていた。別に気を取られていたわけではない、この猫が只者じゃないだけである。
「猫の……神様?」
「いかにも。」
 脳裏に猫の神様に乗って縦横無尽に戦場を駆けた暁の騎士の姿が思い浮かぶ。
「教えてください!」
 がっしと猫にすがりつく青年に、仕方ないといったような感じで猫は見上げていた。

「揺れる揺れる揺れる!」
 訓練が始まって幾時間。背に乗せてもらう青年はすでに疲弊していた。慣れない騎乗という行為にすでに足を初め全身に疲れが出ている。だが、何かがつかめそうな感じである。
「もっと体重移動を意識しろ。」
 大きくなっている猫の叱咤が飛ぶ。意識が飛びかける青年が力が抜けて、力みのない騎乗になる。
「そうだ。その感じだ。今日はこんなものにするか。」
 その声に青年は糸が切れたように崩れ落ちた。疲れて切っているのだろう。やれやれといった感じでその背に器用に青年を載せて猫は歩き始めた。




 涼州藩国は本来的に改造歩兵という強力な歩兵を持っている。その名の通り、全身を機械の身体に改造した兵士であり、機械の身体を持つがゆえに治療による中毒を起こさない、整備による治療を行うことができ、その上で強力な肉体を生かした戦闘を行うことができる。特に改造歩兵用のウォードレスにより強化するという方向性も打ち出しており、その力はさらに増すものと思われる。
 今回の旅においては猫の神様の騎乗というのも一つの目標ではあったが、もう一つの目標がこの改造歩兵との訓練であった。これは素地が高い場合の戦い方を知る上でも重要な位置を占めると思われ、得るものは大きいだろう。