厳しく耐える冬が過ぎ去り、草木が芽吹く頃。冷たい雪は姿を消して、穏やかな流れとなり大地を潤した。
 冬の冷たさを耐える為に人々は小さいながらも身を寄せ合って精一杯生きていた。大地に根を張る植物もこの冷たさに耐える為に実を甘くする。
 実を一つ今年も冬を乗り越えられたことに感謝しながら頂く。
 その味は驚くほどに甘く、暖かい気持ちになる。
 そして、このほねっこの大地に居を構える人々を思い起こさせた。

 人々はそれを、春、と呼んだ。

 青年は駅から降りると春を慶ぶ人々に溢れる後ほねっこ男爵領に来ていた。この国は冬の厳しい地上部とダンジョンエクスプローラーである藩王の令により造成された迷宮部からなる複雑な国家であり、緊急時にはその迷宮深部にある城塞に避難する、と伝え聞いていた。

「暁の円卓藩国の方ですね。武術留学、ですか? 聞いていますけども、まだ迷宮には人を入れてはならないと厳命されていますので、申し訳ありませんが……」
「そうですか……」 
 ちょっと残念そうな青年であった。

 だが珍しい客人としてもてなされて街を見ていくうちに様々な事に気がつく。
 その無骨な雰囲気の町並みにと裏腹に暖かい人々。この街の活気はみんなで作り上げたものなんだろう。
 一人ひとりはそれほどの力はなくとも、この国には他にはない強さがあった。





 アイドレス最重要人物の一人、後藤亜細亜を守る大迷宮を擁する国、後ほねっこ男爵領。
 その大迷宮とは稀代のダンジョンエクスプローラー火足王が自ら手がけた難攻不落と言っても過言ではない代物であった。
 この国はそんな事情を抱える中でも人々は暖かい家庭を築いている。
 これこそが、この国の強さの源泉であるのかもしれない。暁の円卓としても見習うべきところであろう。