夢を見ていた。
暁の円卓の夢を。
祭りの夜、よりそう二人。肩を抱く手から伝わる気持ち。次第にシルエットが重なり……

――そこで目を覚ます。

 いつかの夢に身を焦がし目覚めると、窓の外には雪に閉ざされた島が見えて来ていた。青年の旅も最後の土地、詩歌藩国までたどり着いていた。王都イリューシアに向かうには帝國環状線沖縄駅で乗り換えて、地下水脈によって詩歌藩国内をめぐるシーカヤック、つまりカヌーによる交通網を利用しなければならない。

「イリューシアへ向かわれるんですか? では……」
 そう言って乗せられた環状線シーカヤックは大型カヌーとなっており、極寒のこの国でも凍えずに移動することができそうであった。
 芯まで冷える冷気は冬の暁の円卓でも暖をとり忘れると感じることはできたが、ここの寒さはそれをはるかに上回っており、こういった局地での戦闘はまた平常とは大きく異なることがたくさんある。
「冷凍みかんでもいかがですか?」
「えーと、いやちょっと……」
 そう遠慮しないでも、といわれて差し出された試食用の一切れを恐る恐る口に放り込む。濃縮された甘みが口の中一杯に広がった。地熱を利用した温室栽培のみかんが冷凍されているのだ。この国で取れる種は寒さに耐えられるように糖度が高くなっているのかもしれない。
 結局、買うことになった。




 音楽の都イリューシア。詩歌藩国の首都であり、最近の暁の円卓にとっては記憶に新しい都市の一つだ。
 ここにはかの栄光の音楽院が存在している。暁からもその一員として歌い手を留学させているのであった。

 その栄光の名に比べるといささか寂しい印象を受けるのはやはり、過去の事件の影響もあってのことだろう。だからこそ、これがこの国にとってもう一つのスタートなのかもしれない。

 だが音楽院から生み出される歌い手と吟遊詩人。彼ら、彼女らは歌と伴奏それぞれの得意分野で研鑽し、NWの音楽界をリードしていく事だろう。





 圧倒的な歌声。その歌声には誰もが心を打たれる。

 恋歌は色づくように艶やかに。
 哀歌は心を締め付けるように。
 目を閉じてその歌声だけを聴くと情景が思い浮かぶ様だ。

 宴が始まり、その歌がまた一転した。詩歌より来た吟遊詩人が情熱的なリズムを奏で始める。足踏みが鼓のように鳴り響き、心躍る音律に任せて舞踏が始まった。

「いっくよー!」

 歌い手の彼女は青年の帰りを待っている。手紙によれば今は詩歌藩国に居るらしい。つまりはもうすぐ帰ってくるということであった。久々の主旋歌唱にいつも以上の想いが重なり、彼に届けとばかりに情熱的に歌い上げる。
 激しい舞踏の後にはゆっくりと甘く切ない恋を綴った唄。誰しもがその唄に聞き惚れた。

 ――もうすぐ逢える。