青年にはコンプレックスがあった。青年の恋人は彼の住む村でもとびきりに気立ても器量もよく、そして何よりも強かったのである。国より募集されたこの旅に立候補をしたのもその辺りの事情が関係していた。
 暁の円卓と同じ東国系のたけきの藩国とうってかわってになし藩国に入ると燃え盛る火のように赤い髪の人々が増えてくる。これは「はてない系」の人種の特徴である。
 この地は古くからぽち王女に縁の深い土地として知られており、王女のためとなればこの帝國でも有数の力を発揮する、いわば王女のための国であった。

 列車はになし藩国に停車する。この国は連合関係にあるわけではなかったが、ここには黒騎士と呼ばれる者達がいると聞く。有名な騎士の兄弟であるエイジャ兄弟から薫陶を受けた彼らからは多くのものを得ることが期待された。駅舎から出た青年は眩しそうに空を見上げた。大きな火山にが視界に入る。その風景今まで訪れた国に共通のものである。ただ同じ火山でも大きなカルデラを持つこの国はまた違う趣を見せている。

「兄ちゃん、ここははじめてかい?」
「こんにちは、そうですね。はじめてです。あ、すごい鍛えりれた肉体ですね、何かされてるんですか?」
 聖騎士により紹介されたその先には乗り合いで向かっている。隣に座った人懐っこそうな黒づくめの男が声をかけてきた。その服装に隠されてはいるがかなりの修練を積み完成された肉体が生地を押し上げる筋肉で見てとれた。暁の鍛え方とはまた違ったものである。
「僕も負けてないですけどね。」
「なるほど、いい筋肉だ。」
 二人はにやりと笑うと俺もそれなら勝負だとばかりに上着を脱ぎ誇示しはじめた。囃し立てる乗客、無言で目を反らす女性、周りの反応は様々である。

 ただ騎士団寮に着いたとき、二人そろって怒られたのは言うまでもない。




 になし藩国の黒騎士は今でこそ人騎兵のパイロットをも行う低物理域対応パイロットの道を進んでいるが、かつては純粋な低物理域白兵戦力であった。
 中でも黒騎士はその行軍を含めた能力に目をみはるものがあったのである。彼らの戦闘法も暁の円卓には大いに参考になるだろう。