「おおー、すげー」
 空を見仰ぐ青年の目には、FVBが誇る軌道降下兵??宙の神兵の姿が映っていた。
 赤熱化したパワードスーツが遥か高空から落下するその光景は、この国ではありふれた光景である。
「おおおー!」
 見上げる空の上で、宙の神兵の姿がどんどん大きくなっていく。対空戦をその鍛え上げた肉体でやってのけてしまう暁の円卓といえど、流石に軌道上からの落下は不可能である。
 ……不可能なはずである。多分。
「おおおおー、枚方さんの鎧みたいだなー」
 落下を始めた当初は二等星程度にしか見えなかった宙の神兵の姿が、その形を確認できる程度に大きくなっていく。
 それを見て、青年は暁の民らしい感想を抱いた。
 剣による白兵戦術を主とする暁の円卓において、実は頭までの全身をすっぽり覆う鎧というのは、枚方弐式が着用している被り物くらいしか存在しない。
 全身鎧自体はますらおの名を冠したものが藩王直下の騎士達に与えられていたが、こちらも全身をくまなく覆う所謂フルプレートではなく、金属版を組み合わせたラメラーメイルである。
「それにしてもすごいなー……って!?」
 飽きることなく見上げていると、神兵の姿がまた大きくなっていた。心なしか、こちらに近づいてきているような……
「え、えええ!?」
 避けるべきかどうか考えるより前に、宇宙の戦士は青年のすぐ隣に着地した。
「貴殿が暁よりの旅人か」
おそらくパワードスーツの拡声器を通じたものであろう、機械化された音声が青年の耳に響く。
「あ、はい。でもなんで?」
 暁の民からすれば理解しがたい状況であったが、青年は素直にそう答えた。
「暁の剣士が帝國諸国を旅しているというのは、それなりに有名でな。それに、わが国には暁に縁のある者もいる」
「はあ……」
 要するにいつの間にか、自分はちょっとした有名人になっていたらしい。
「まあ、これも何かの縁。その話を聞いてぜひ手合わせを……と思っていたのだ。いかがかな?」
「え、いいですけど……その鎧、動きづらくないですか」
 特に萎縮した様子もなく、青年は問い返す。各国の武術を学ぶという旅の目的からすれば手合わせは願ってもないことであったが、ぱっと見にそのパワードスーツは自分と仕合うには余りにも鈍重に見えた。
「心配無用、これでも我が国は侍の国。この姿となっても、剣の心得はなくしてはおらぬ」
「なるほど」
 そう言えば、かつてこの国は侍の国であった、という噂も聞いた覚えがある。その証左に、パワードスーツの武装コンテナから大剣を取り出し、構える姿はなかなか堂に入ったものであった。
「いきますよ!」
「仕る!」




 現在FVBと言えば二隻の冒険艦を持ち、宇宙開発を積極的に推し進める、言わば「宇宙の国」である事に異論を挟むものはいないだろう。
 しかし、宇宙軍の再建によって宇宙への帰還が叶うまで、この国は別の形で知られていた。
 サイボーグ化によって筋力強化された剣士を擁する、白兵の国としてである。
 多くの国が大剣士、拳法家、騎士などによりその技を修練させる中で、また、FVB自体も発掘された冒険艦を運用する為に船乗りを擁する事が多くなった今では半ば忘れ去られた形になってはいたが、決して失われたわけではなかった。
 宇宙という特異な空間で磨き上げられたその白兵戦闘術は、住まう世界は違えども暁の戦士に新たなる示唆をもたらすことになるであろう。