山をこえるとそこは神聖巫連盟の領地だ。暁の円卓にとってはよき関係を築く友邦であり、小さいながらも芯を貫いた方針は見習うべきところも多かった。ともすると殺伐としがちな暁の円卓にはその暖かさは眩しい。
 その日の歓待は神聖巫連盟らしいものとなった。医食同源の考え方が取り入れられた料理に、申し分ない旬の素材。豊饒な土地を誇るよんた藩国と重農政策を施行する土場藩国に隠れがちだがこの国も建築業が有名になる前には農業の国として知られていた。
 そして国を挙げて行事を行うことでも有名である。
「おかわりっ」
 もう何杯目だろうか。そっと出すようなこともなく、素朴ながら旨い食事を腹いっぱいに掻きこむ。見ていて気持ちがいいくらいだ。
 侍女も思わず微笑みが浮かんだ。この国の侍女は、さすが侍とつくだけはある、といわれるぐらいの隠れ武闘派であったりする。いや、侍女の侍の字はさぶらう、つまり貴人の傍に仕えるということなのだが。

 空には月がかかっていた。
 どうして同じ東国でもこれほどまでに違うのだろう。

「お客人よ、どういたしました?」
 糸目の男が声をかけてくる。その格好より式神を使うものだろうということは想像に難くなかった。この風雅なる夜にはよく似合っている。 古の平安の世のおとぎ話によく似ている。
 見えているかはわからないようなその目より受ける印象は、すべてを見透かしているようだ。
「ただ、月が奇麗で。」

 現在この国は暁の円卓と直接繋がっている。つまりは今すぐ帰ることができるともいえる。だがこの旅は途中で終えるわけにはいかない。今はその気持ちが大きくなっている。

「故郷が恋しくなったか?」
「ええ。」
 青年は素直に頷いた。そう、すべてはまず自覚から始まる。強がるのではなく、それを認めた上で乗り越える。前に進むためには重要なことだった。

「ですけど、すぐに帰るわけにはいきませんから。」




 神聖巫連盟という国は大きくいく二つの系統が有名である。
 一つは一躍この国を中堅国家まで押し上げた原動力である建築家の流れ。
 そしてもう一つは式神や悪魔といった通常の物理の存在ではないようなものを使役する召喚系の流れ。どちらも白兵とは直接の関係はないのだが、とくに一つ目の建築家の流れは暁にも大きな影響を与えているのである。

 一番大きなものは本文でも書かれたようにその国風だろう。

 家族や友人同士でも殺しあう世の必然だというならば、殺しあうべき相手でも家族や友人にはなれるはずだ。

 この言葉はこの国を表す最たるものであろう。例え異形の悪魔ですら畏敬の念を込めて、ともに歩もうとしていると聞く。違いも何もかも乗り越えて通じ合う。そんな姿勢が暖かな関係を作り出すのだろうか。