「……悲鳴?」
 うわーとかきゃーとかそう言う類のものだ。ただし、いわゆる絶叫系のアトラクションにでも乗っているかの頻度で聞こえてくるため、さして緊急性を感じるようなものではなかった。そう、この時点で気がつくべきだったのだ、この異常性に。

――越前藩国 宇宙軍養成学校

『こちらになります』
 たしかにそう案内されたはずだ。
『暁からの武術留学の方ですよね』
「ええ、あってます」
『では、そこにあるセットを身につけてください。申告されたサイズは標準よりも大きいですが、何とか見つかりましたので』
 悪戦苦闘しながら着慣れないパワードスーツを着せられて、シミュレーターに放り込まれる。
「ありがとうございます、何をす……」
『では、グッドラック』
「はっ?」
 波瀾万丈な留学の日々が始まった。


 窓の外は一転して宇宙空間だ。やはり地球は蒼かったと月並みな台詞が思い浮かぶ、そんな光景を背景に降下ハッチの順番待ちをしている。自分の身体が自分の身体じゃないようだ。
「見かけない顔だな」
 青年の隣に腰掛けて順番待ちをする若い学生が声を掛けてくる。
「ええ、暁から武術留学に来たんです……が、なんでここにいるんでしょうか?」
「いや、そりゃ、自分で来たんじゃないのか?」
 学生は呆れたような目で青年の話を聞くとあーという表情になっている。
「まあ、災難だったな。(ここだけの話だがあのオペレーターにはみんな初めはいろいろやられててな)」
 声を潜めながらそう呟いた。
『そこ、私語を慎んでください。降下訓練を開始します』

「じゃ、お先に」
 軽く、つま先で飛び立つとバックファイアを背景にすごい勢いで遠ざかっていく。これが慣れというものだろうか。

『あれ、意外に落ちついていますね。心拍数もそんなに上昇見られません。本当に初めてですか?』
「こう見えても緊張してるよ」
 青年は故郷での訓練を思い出していた。今でこそ大分状況の変化が起きているものの落ちると言えばあの地獄のようだった三角とびの訓練を思い出す。落ちること自体はさして抵抗感はない。ただこの高度は初めてだった。

 ふっと足元がなくなる感覚。

 重力という巨大な腕が青年の身体をしっかと捕まえた。浮遊感と共にめまぐるしく変わっていく風景が恐怖感を煽る。確かにこれは絶叫マシンよりも遥かにクールだ。
 意識を失えば、それこそ大惨事にもなりかねない。

「っ!」

 目測を誤ったか目標地点から少し外れている。運が悪いことにそこに足元は、ない。

「こっちだ!」
 もう一人の訓練生の早い段階の降下ミスをフォローしていたオペレーターが異常に気づいた。こちらにも介入を開始し始めるが遅い。あわやそのまま通り過ぎるかと思われた所でいきなり、青年はバックパックを切り離した。
 そう、「面」さえあればいい。

 ――ならば。

 落ち行くバックパックを蹴り上げてPFの縁に飛びついたのである。
「ぜーはぁーぜーはぁー」
 伸ばされた手を掴んでプラットホームに登る。かろうじてではあるが成功したのであった。断っておくが、これはあくまでシミュレーションである。




 越前藩国は情報の国だ。そのことに異論を挟むものはいないだろう。だが、実は同時にサイボーグを主体とする宇宙対応の機械歩兵の国でもあった。軌道降下兵を持つのは宰相府とFVBと、そしてこの越前藩国だけというところを見てもその特徴はわかると思われる。
 また、剣と王という暁の円卓と似通った方向性を持ちながら、ファンタジー側に大きく傾く暁の円卓とはまったく逆方向を向いていると言ってもいい。高い物理域でこそ輝きを放つ彼らからは逆の方向性を持つからこそ学ぶところは多いのである。
 武術としての学ぶものは何も極地戦だけではない、剣と王のあり方は新たな方向性を考える上では学ぶべきところだろう。